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「頭巾(ときん)」とは、修験道で用いる、直径8センチほどの小さな頭巾(ずきん)です。「頭襟」や「兜巾」などと書くこともあります。
昔からの物はたいてい布製です。漆などで固められ、しっかりした頑丈な作りで、一見して布製とはわかりません。もっとも、最近は非常に安価なプラスチック製のものが流通しています。
頭巾の両側には、脱落防止の為の紐が付けられるようになっています。頭巾をかぶるときは、その紐をアゴの下で結ぶのです。しかし、なんといっても小さな物ですので、「かぶる」と言うより、「のせる」と言った方が良いくらいのものでしょうか。
頭巾には、大日如来のかぶる「五智宝冠」をかたどったものと、不動明王の頭頂にある「八葉蓮華」をあらわすものとの、二種類があります。
右上の参考画像の頭巾は、大日如来の五智宝冠をかたどったものです。この頭巾の上部には、十二のひだがありますが、これは仏教の「十二縁起」という根本経説の象徴であると言われます。十二縁起という、仏陀の根本経説を実践し、大日如来の五つの智慧を獲得する、というような意味が、この頭巾の形には込められている、と言うわけです。
また、十二のひだについて、中央から左側の六つのひだは、六道衆生(生きとし生けるもの)が輪廻して苦しみを受け続けることを、右側の六つのひだは、六道衆生が輪廻から解脱することを表している、などとも言われます。
ちなみに、この頭巾は、とても小さな物であってもヘルメットのような防具としての役割ももたされています。また、喉が渇いたときには、コップがわりに清水を汲んで渇きを癒す、なんて使われ方もあるのです。
「笈(おい)」とは、今でいうリュックサックまたはバックパックです。笈には、「箱笈(はこおい)」と「縁笈(えんおい)」の二種類があります。
箱笈は、右側画像のように、箱に背負うための肩帯が直接付けられたものです。縁笈は、いわば背負子(しょいこ)で、箱を着脱出来るようになっており、箱笈に比べれば、若干背負いやすく、色々な物を運搬するにも融通が利くものです。
笈はほとんどの場合木製で、これ自体でもかなりの重量があり、現在のリュックなどとは比べものにならないほど、担ぎ心地が非常にわるいものです。
木製ですので、衣の背中の笈がこすれる部分はたちまち破れてしまいます。衣が擦り切れるのを防ぐために、袖無しのベストのような着物を、衣の上に着ることもありました。これを「笈摺(おいずる)」といいます。
修験者は、この笈に、不動明王などの本尊や法具・法衣・経本など、さまざま支具を収納して担ぎ、山野を移動していました。
笈は当初、山から山へ、野から野へ転々と移動する修験者には必須の実用品でしたが、後代はそのような実用よりも、儀礼に使用する為の象徴的道具の一つともなり、右上写真のように、種種に装飾がなされた華美な物も多数伝えられています。
「貝緒(かいのお)」とは、いわばザイルです。また、これを「螺緒」と書く場合もあります。
修験者は、貝緒二本を1セットとして、腰の両側に房が垂れ下がるよう結びつけていますが、絶壁を登る時や、なんらか緊急時には腰から外してこれをほどき、ザイルとして使用したといいます。
今より少し前までは、「貝緒」は、その字が示すとおり、法螺貝を結びつけるために用いられていました(*修験の法具「法螺貝」画像参照)。
しかし、今は綱状の法螺貝袋が考案されたため、法螺貝に貝緒を巻きつけることは、ほとんどされなくなっています。また、現在は、貝緒をザイルとして使わなければならない行場など滅多になく、あったとしても、自らが着用している貝緒をザイルとして使用するような人もまずありません。ですので、貝緒は、修験者が腰に付ける装飾具の一つに過ぎなくなっています。
さて、この貝緒は、実用面ではザイルとして使用されていたものですが、宗教的な意味合いも持たされています。貝緒は、その形から梵字「鑁(ばん)」字であるとされ、そこから密教の金剛界の象徴であると言われます。そしてまた、曼荼羅を結界するための綱、「壇線(だんせん)」としての役割があるとも言われています。
「引敷(ひっしき)」とは、いわば携帯座布団です。引敷を着けるときは、お尻の上にあて、紐で腰に巻き着けます。
引敷は、鹿やウサギ、狸(たぬき)、時として熊などの毛皮で作られます。修験者が獣の毛皮で作られる引敷に坐ることを、文殊菩薩が獅子(ライオン)に乗っていることに、なぞらえていると言われています。
また、修験者が山野を駆け巡ることが、獣のように勇ましく迅速である、ということを表すためのものである、ともされています。
さらには、獣の皮は自らの煩悩であり、これに坐すことは、煩悩を制する形、煩悩を克服した姿である、などという解釈もされています。
いずれにせよ、引敷は、山野において、木の根の上やごつごつした岩の上に座るときなど、非常に重宝する実用品です。
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